ミエは夢を見た。夢ではなかった。どこともわからぬ夜の街の道を 、急ぎ足で歩いている。目的地がどこなのか、なぜ急いでいるのかもわからない。 しかし、急がねばならぬのだ。  やがて、そ卓悅假貨理由を知る。追われているのだ。ふりむくと、黒衣の人物がついて くる。ずきんのついた、すその長いマントのようなものを着ていて、足が見えず、 男か女か、老人か若いのかもわからない。もうずいぶん逃げつづけているのだが、 距離はひろがらない。黒い蛇に追われつづけているようだ。  建物の角を曲ろうとした時、だれかにぶつかる。「助けて」と飛びつき、よく見 るとそれも黒いマントの人物。顔にも黒いずきん。恐怖と好奇心とで、そのずきん を引っぱ張詠妍のってはがす。しかし、その下にも黒いずきん。その下にも……。  彼女は逃げ、近くの家の戸をたたく。扉が開くが、そこに立っているのも、やは り黒いずきんとマントの人物。彼女はまた逃げる。道ばたに公衆電話をみつける。 あれで助けを呼ぼう。そして、電話機の前に立った時、電話機が鳴り出した……。  その音でミエ辦公傢俱は目をさました。汗びっしょり。しかし、電話の音はつづいていた 。そばの電話機が鳴っているのだ。ねむけの残る頭で、受話器を手にする。 「もしもし、どなた……」 「蛇です」 「あら、さっきの先生ですの……」  彼女は言った。精神科医からの連絡かと思ったのだ。しかし、ちがうことに気づ き、息をのむ。いっぺんに目がさめ、背中が寒くなる。あの幻聴かもしれぬ、だれ ともわからない声だったのだ。 「……これ、幻聴なのかしら……」 「ちがいます。幻聴のような気がしますか」 「そうは思えないわ。いったい、だれなの、なんの用なの、なにが目的なの……」 「あなたについてくわしく知っている者です。蛇について固定観念があるというこ ともね。くわしく言えば……」 「よしてよ」  ミエは電話を切ってしまった。むしょうに腹立たしかったのだ。あたりを見まわ す。室の厚い壁も、特殊ガラスの窓も、厳重なドアの装置も、なんの役にも立って いないことを知った。プライバシーという秘宝をまもる城壁ではなくなっているの だ。  かこいがなにもかも取り払われ、衣服をはがされ、心のなかの記憶までが白日の もとにさらされているようだ。このような室のなかにいるというのに。  彼女は判断した。これは悪質な犯罪にちがいない。目的はわからないが、おそる べき犯罪があたしをねらっているのだ。徹底的に究明してもらわなければならない 。彼女は警察へ電話しようとした。  ダイヤルをまわす指に力がこもる。呼び出し音が少しおかしかった。だが、いき どおりで燃えているいまの彼女には、そんなことは気にならなかった。 「もしもし、警察でしょうか」